2019年4月23日火曜日

小さな集積

2017年秋冬、susuri のコレクションテーマは「parted」でした。

展示会で、「カズオイシグロの小説、『わたしを離さないで』の

演劇舞台からインスピレーションを受けました。」

と聞いて、ふーんと思って、少しずつその小説を読み進めていきました。

その秋冬、実際に商品がお店に並び始めた頃、カズオイシグロが

ノーベル文学賞を受賞したのを覚えています。

なんだか、susuri さんのおかげでノーベル文学賞受賞作家の

代表作をその直前に読むことができたのが嬉しかった記憶です。

そのシーズンに生まれた新作の一つに、今現在、susuriの代表作の

一つに挙げられるワンピースとブラウスがありました。





















susuri

ドナーワンピース ¥35,000+tax

当時から生地も同じものを使っています。

高密度なコットン素材は、張りがあって、しなやかでソフト。

susuri のオリジナルカラーを含み、毎シーズン

色を変えて楽しませてくれています。

こちらの写真は色がうまく出ておりませんので、

色は通信販売ページを参照してください。





















ドナーワンピースというネーミング通り、

舞台で登場する医療用の衣服をイメージして

デザインされたワンピースです。

小さなVネックカラーは、インナーを気にすることなく、

ワンピース1枚でサマになります。





















ウェストは共布のヒモで結わけるデザインです。

もちろん、ただ結わけるという単純なものではなく、

susuri 齋藤さんならではの細やかな工夫に満ち溢れた、

素敵なワンピースに仕上がっています。





















ドロシーから受け継いだ、隠れループが

ドナーワンピースにも備わっている。

どう使うかは、何度もご説明していますが、今一度。





















左脇からまわしたヒモをループに通します。





















逆の右脇のヒモを反対の左脇にまわします。





















ループを通したヒモと、右脇からまわしてきたヒモを

結わきます。





















そうすると、、

このように片側だけにひもが存在するかのような

視覚的に面白い仕上がりになります。

アシンメトレーデザインを好むデザイナー斎藤さんが

仕掛けた、魔法のようなデザインです。





















片側に集まるシャーリングドレープ。

もう片側の、何もないのにシルエット変化が起こる、

不思議で美しい輪郭。















しっかりとした丈感と薄くても透け感のないコットン

素材が年間使いまわすのにとてもちょうどいい。





















このように、通常通りキュッと結わけば、

また違った雰囲気を醸し出す。















ドナーワンピースには、susuri さんならではな特徴が

たくさん詰まっているように感じます。















歴代、様々なデザインに用いられてきたこの素材。

隠れループにより生まれ出る美しいアシンメトレーデザイン。

シャツが大好きなデザイナーらしい、

随所にちりばめられたシャツのデザインディテール。

たくさん並ぶデザイナーが大好きな釦。

そして、、、





















こちらもいくつかのデザインに用いられる、

バックテールに入る小さなスリットのような刻み。

ちょっとしたことだが、見た目にも可愛いし、

視覚的なバランスの調和にも役割を感じます。





















そして私が最も特徴的だと感じるのは袖。

ドロップショルダーで、肩には丸みを付けて落としながら、

袖の肘あたりで、もう一度小さくふくらみをつくる。

少し大げさに言うならば、シャツというより

ジャケットの袖のようだ。

もちろん袖口には剣ボロ、カフス。

こちらはシャツのデザイン。















今回で4回目のご紹介となるわけですが、

全く色あせない存在感。

「シンプルでいて、個性を感じるデザイン」

は、とても理想ですが、これは狙ってできるものでもありません。

来る日も来る日も、このワンピースについて、

齋藤さんが考え続けた結果です。

継続的に思考を巡らせることの大切さ。

素敵なデザインを世に送るデザイナーには共通して、

執念深さのようなものを感じます。

もちろん、様々なジャンルのお洋服があって、

中には「ノリ」がとても大切なものも存在します。

しかし、何年着ても飽きない、普遍性を感じ得る

お洋服は、きっと執念深く、足したり引いたり、

また足したり。。そんな長い思考の連続から

生まれてくるものだと思うのです。