2019年3月31日日曜日

新境地

ブランドにとって、「らしさ」というのは

すごく大切なものだとつくづく思います。

しかし一方で、そのらしさが定着して、

一定の時間が過ぎた時、それを見慣れた人たちは、

必ず新しい刺激を求めるものだとも思います。

お洋服が好きな人ほど、きっとそうでしょう。

我々もその一人です。

バイヤーという厳しい目で見るプロを相手に、

それを続けなければならないデザイナーは、

きっと我々お店以上にそこに対する貪欲な気持ちを

常に持っているように感じます。

まず、作り手であるデザイナー本人の気分が上がるものでなければ、

そして、本人が新鮮な気持ちで臨めるコレクションにしなければ、

きっと洋服好きな人たちの心をつかむのは難しいでしょう。





















susuri キアラドレス

black ¥50,000+tax

susuriデザイナー斎藤さんは、素材づくりにこだわり、

より自分らしくオリジナリティーある生地を作るべく、

様々な産地に自ら足を運び、毎回ドキドキする

生地をお披露目してくれる。





















前回の春に見せた「ルッキンググラス」シリーズに続く、

カットジャカードの花柄は、より凹凸感を感じさせる、

繊細かつ大胆な素材です。





















素材そのものは透け感があり、メインは黒い糸を用い、

ジャカード部分は一部ネイビーの糸を使用して、

より奥行きを感じさせる仕上がりになっている。

生地の重なりがあるデザインになっていますので、

透け感は緩和されてはおりますが、着用の際は

スリップドレスやインナーパンツ、ペチコートなどを

着ていただいたほうが良いでしょう。
















背面にボタンが一つ。

被って着ていただくタイプです。

コレクションの中にこういった素材が入ることで、

抑揚があって全体がより新鮮に見えますし、

定番も引き立ちます。





















太い袖幅に狭い袖口。

下袖の切り替え。

デザインのディテールを取ってみると

従来susuri さんの得意なデザインのようにも感じますが、

ハッとさせられたのは実は全体のシルエットバランスでした。





















従来のsusuri さんのワンピースデザインは、

お好きな方はお分かりかと思いますが、基本的に

Aラインが多いのが大きな特徴だと思います。

肩回りが小さめでも、体から離れたデザインが

メインで、過去のコレクションを見渡しても、

ボディーコンシャスなデザインは2つほどしか浮かばない。

今回のこのワンピースのデザインは、過去のコンシャスな

ものと、今までのsusuri さんの王道がいい感じにミックスされた、

ちょうどいい女性らしさ、ちょうどいい余所行き加減を感じました。





















フェミニンなドレスでは全くないのですが、

ロング丈に入った25cmのスリットは、

とても女性らしさを感じさせる。


展示会で大喜びして個人発注した妻は、

今年の入学式で着ることを楽しみにしている。





















大きな特徴の一つは、やはり全体のシルエット。

バストは実はさほど大きくなく、

バストラインからヒップまで少し広げて、

そこから少しインカーブ気味に裾まで絞って落としている。

足さばきを考えての25cmスリットなのでしょう。





















微妙な加減なのでしょうけど、

逆に言えばたったそれだけのことで、

着た時の印象がここまで変わるのかと、

少し楽しくなってくる。
















もう一つの特徴は前シーズンあたりから見られる、

袖付けのネックに近い部分にギャザーを入れたデザイン。

とても華やかなsusuri らしい、

そして女性らしさを感じさせるワンピース。















動いた時の袖の分量感と脇のスリットの空き具合が、

とても美しい。





















そして、わたくしが最も気に入っているのが、

実はこの後ろ姿。

ドレスラインではあるのですが、

どこか和装を想像させるようなシルエット。

これはsusuri さんの描く独特なシルエットの数々を

思い返してみても新しい、新境地のように感じました。

心新たに進むとき、新鮮な装いで進んではいかがでしょうか。




2019年3月30日土曜日

「AODRESS~刺繍の旅~」


彼らは漂うように生きている。

お堅く生きてきた私には、不思議極まりない浮遊物のようにも見える。

絵が驚くほど上手なのだが、本格的に勉強した経験はない。

10代で海外に出た二人は、当時の自分たちをこう振り返る。



「全く人間らしい生活をしていなかったし、その日僕らがこの世から

いなくなっても誰も気がつかないような存在でした。」



絵にかいたようなヒッピーだったという。

そんな旅の途中に出会ったのが、インドのカディー(手紬、手織りの布)を

製作する村人たちだったそうだ。彼らのモノつくりに感激した二人は、

その土地にしばらく居座り、学び、その生活に馴染んでいったという。

そして、再び戻ることを強く決意した彼らはいったん帰国し、あの村の人たちと

何ができるか?自分たちは何がしたいか?

問い続けた結果、生まれたのが「AODRESS」というブランドだった。

彼らに「ブランド」などというと、

「いやいやそんなたいそうなものではない。」と、

必ずそのように照れくさく答えるのですが、、確かに、話を聞けば聞くほどに

「ファッションブランド」という感覚がしっくりこない。


















「最近はカディをあまり使わないですね。」という問いに、

「初めて見た時のような納得のいく製作現場がない。」と答えてくれた。

それは、世界的に良い生地として流行って、村に富をもたらしたことへの

副作用なのかもしれない。そう思うのだが、それはカディに限った現象でもない。

そんな彼らの話を聞いていると、やはり「ファッションブランド」という言葉は

全くしっくりこない。



「インドは好きですか?」という問いには、

「好きっていうか、、なんか一緒に生きていかなきゃ仕方ない、家族みたいな存在。」

そんな風に表現していた。



そんな彼らが今、力を注いでいるのが高級織物で有名な「ジャムダニ」や

自身の描いた絵をもとに作り上げた、インドの手刺繍をふんだんに盛り込んだ

洋服の制作だという。そのために、昨年ようやくインドの地に小屋を建てたそうだ。

付き合いの長い、腕のいい職人さんたちの小さな仕事場を作ったのだという。



「コミュニケーションはどうしているのか?」と聞くと、

「言葉が通じるかどうかは、ちょっとした問題ではあるが、

大した問題ではない。」という。

英語でわかる範囲で会話をして、楽しく過ごしているそうだ。



インドでは、日本人のペースで仕事を進めていくのは不可能だと

言われている。その理由は、ただただ、のんびりした国民性からくるもの

かと勝手に勘違いをしていた。年間、多いと3~4回、何か月にも及び

インドで生活する彼らにあらためてそれを聞いてみると、少し違った答えが

返ってきた。



「インド人は日本人よりよっぽどせかせかしてますよ。ただ、

人をもてなすことや、話をするのが大好きな人たちで、

ちょっと生地を買いに行ってくるといっては、しゃべりすぎて

5時間かかる。」



チャイを5杯、6杯飲むのはざらだという。

だから、ゆったりしているという表現には全く違和感があり、

「せかせかしているのに、事が前に進んでいない」

というのが正しいそうだ。

そこにはかなりのストレスを感じるらしい。

だが、そういう現場だからこそできること、むしろ量産体制が整った現場では

できないことが、そこにはあるのだという。



きっと僕をはじめ、見て買ってくださる方々は、そこに素直に感動して

くださっているのだと思うのです。

たくさんの大変そうなエピソードを聞いた後で、素直な気持ちで

「仕事、辛くないですか?」って聞いてみると、



10代、20代があまりにひどすぎたのか、、好きなことを好きな人たちと

やりあって、買ってくださる人たちがいて、幸せ過ぎて申し訳ない。」という。



そんな彼らの作品展を刺繍に焦点をあてて行います。

在店は今回も叶いませんでしたが、今回のディスプレーは彼らにお任せしました。

どうぞ、ディスプレーも含めて、ご覧いただけますと幸いです。











「AODRESS~刺繍の旅」

2019年4月6日(土)~14日(日)まで、annabelle 304にて

AODRESSの刺繍の仕事を中心にご紹介いたします。

※4月10日(水)は定休日でお休みとなります。

また、こちらのブログから、スタイリングの写真も

ご紹介させていただきますね。



2019年3月29日金曜日

gasa * grue

GASA*のもう一つの顔として、

毎回楽しませてくれる、gasa * grue(ガサ・グルー)。

GASA*が様々な要素を多重に取り入れた濃厚な内容で

あるのに対し、gasa * grueのほうは、デザイナー五十嵐さんの

ベースになっている部分はしっかりと持ちながらも、

軽やかに、よりベーシックに構成されたブランドである。

もう何回もコレクションを拝見していて、どうやら五十嵐さんは

太ストライプとマリンボーダーがお好きなんじゃないかと思い、

「好きですね?」って聞いてみると、軽快な感じで、、

「どっぷりオリーブ世代ですから。」って返ってきた。
















gasa * grue

アーミーコート ¥46,000+tax

袖口をニットで切り替えた、とてもワクワクする洋服です。
















生地はリネン100%の素材に樹脂加工を施し、

レザーのような風合いを実現しています。

張りやわずかな硬さがありますが、着るほどに

いい具合に馴染み、味わい深さが増してきます。




















一応、こちら側がフロントサイド。

ネック部分から垂れ下がったヒモは、特に絞るということは

なく、垂らしたままにしても良し、結わいても良し。

ウェストには共布のベルトが施されます。

ゆったりと着たり、キュッと絞ってみたり。

表情の異なるスタイリングをお楽しみいただけます。





















袖口は革ジャンかのようなリブ編みのデザイン。

素材はこう見えて、リネンです。





















前開きの比翼仕立てで、こちらを前にして、

コートのようなワンピースのような感覚で着ていただけます。

ちょっとドキドキするカッコよさ。





















そして、こちら側が背面という事なのですが、、
















実は両面着ていただけるお洋服なのです。

そして、わたくしのバイイングの好みについて

詳しいお客様は、こう思うかもしれません。

「あれ?2WAY嫌いじゃなかったか?」

確かに、、基本的には好きではありません。

だから、展示会場で五十嵐さんにお勧めされるまで、

バイイングしようとは思っていませんでした。





















毎回、毎回、驚くような楽しいデザインに

お客様と同じような心持で展示会を堪能しています。

このお洋服は、展示会場で着てもらって、本当に良かった。





















ウェストのベルト紐は、どちらを前にしても

使えます。お好みでどうぞ。





















こちら側をバックサイドに着た場合、

このようにリボン結びをしていただいてもよろしいかと思います。





















色展開は、少しオレンジ味の強いRedとBlackの2色。





















FIRMUMの麻のツナギの上からコートとして。





















前ボタンは閉めずに全開で、

ヒモで結わいて着ています。















同素材の大き目なショルダーバッグも素敵です。





















前ボタンをきっちり締めてみました。















春先は少し強めにキュッと結わけば、

見たこともない素敵で個性的なスプリングコート。















着て、外に出るのが楽しくて仕方ない。















樹脂加工でツヤツヤした見た目は、

6月の梅雨寒の羽織にも良さそうです。





















こちらがバックサイド。

ヒモは軽く結わいてゆるりとワンピースで。

ただし、ボタンの間隔も大きいし、

裾の開きもあるので、下にはパンツやスカート、

ワンピースなどを重ねたほうがいいですよ。















こちらはリネンのバルーンパンツを下に履いています。





















手に覆いかぶさるゆるっとしたニットの

袖口もかわいらしい。















ブラックはバックサイドを後ろでキュッと結わいて

絞り気味で着てみました。





















下には、susuriさんのフルッタ―パンツを

忍ばせて。。このパンツ、本当に便利です。















後ろにリボン結わきがあると、また印象が変わりますね。





















釦はきっちり締めて、キュッと結わく。

ここまででも、かなりいろいろ着ていただける

楽しいお洋服なのですが、僕が気に入ったのは

さらにこんなスタイリングを見せられたから。






























なるほど、、エプロンワンピースだ。

真っ白なスカートにボーダーTシャツ。

その上から後ろの釦をすべて外して、ヒモだけ結わく。

とってもかっこいいスタイリングです。
















アトリエで絵を描く女性をイメージした今回の

gasa * grue のコレクションの中で、

こちらの素材のシリーズは、「ドローイングのための」

という名前の付いたシリーズです。

つやつやとした樹脂加工は、アトリエワークの

作業着を空想して生まれたのかもしれません。

スタイリングを分解して、一個、一個のアイテムを

シンプルにデザインすることが裏テーマにもあるgasa * grue。

着た人の自由な発想を、きっとお洋服のほうが待っています。

毎日を楽しく過ごせるお洋服かと思いますよ。




2019年3月28日木曜日

デザインを排除したデザイン

昔ほど聞かれなくなりましたが、先日も久しぶりに

あるライターさんから質問をされました。

「なぜ男性でレディースのセレクトをやろうと思ったか?」

答えはいつも同じなのですが、

「洋服の種類が多くて楽しそうだから。」

「かわいいものが多いから。」

他にも理由はいくつかありますが、これらが多くを占めています。

特に、洋服の種類の多さには男性目線で見ると羨ましいにもほどがある。

今日ご紹介するスプリングコートも、サイズが入れば欲しいと

思えるほど羨ましいデザイン。

男性物にはありそうで見かけない。

だから、サイズの入るレディースの服を良く買うのですが。。
















evam eva

コットンノーカラーコート

ecru ¥37,000+tax





















コットンで滑らかな質感を実現するため、

微量の起毛をさせたコットン生地は、

「まだ少し寒いかな?」って思える今時分から、

初夏と呼ばれるゴールデンウィーク後、

6月は日によって気温の下がる「梅雨寒」と呼ばれる頃、

季節に応じてインナーを変えていくことでとても

長い期間活躍しそうです。





















目立たないように切り替え線上に入れたポケット。

ノーカラーの比翼仕立てにはぴったりなポケットです。





















メンズで探すとあまり見かけないノーカラーコート。

レディースでは定番的存在です。

スッキリとして巻物も使い易い。





















こちらのコートのイメージは、「徹底したデザインの排除」

だそうです。

釦も見えないほうがいい。

ステッチも表に見えないほうがいい。

ポケットも目立たないほうがいい。

それはすべて、シルエットを美しく見せるための

大切なデザイン要素なのです。





















インボックスプリーツをラフに仕立てたバックサイドの

デザインにより、わずかに広がるAラインが特徴です。





















色はオフホワイトに近いエクリュと、

カーキベージュを軽くしたようなシルバーセージの2色をセレクト。





















susuriのミイワンピースに重ねて、エクリュ。

西別府さんのブローチは、コートに付けて

普段使いしていただいてもとても素敵です。















天気予報に耳を傾けながら、中に何を着るか

決める毎日。日中は暖かくても、

夜は気温が10度くらい下がる日も多い春。















温かい冬用のアンダーウェアにタイツ、

コットンの長袖のワンピースにスプリングコート。

今時期は、このくらい着ていても寒い思いをすることもある。

場合によっては、冬の薄手のカシミアなどは大活躍する頃でしょう。















前を開けて羽織る感じでもサマになる。





















シンプルなパンツスタイルに、

奇麗なシルエットが引き立ちます。















小さなネック周りですが、ハイネックやタートルも

奇麗に収まります。















季節が進んだら、前を開けて袖をまくってもいい。















その滑らかなタッチは、Tシャツの上にも着たくなる。