2019年3月12日火曜日

魔法に磨きがかかるとき

デザイナーにとって、ずっと同じ商品をリリースし続ける

ということは、もしかしたら一番難しいことなのかもしれません。

提案するものがファッションである以上、最も重要視されるのは

その時の気分であるから。

そこは、工芸や民芸などと大きく異なる点で、「着るもの」を超えて、

購入して着てくださるお客様の気分を盛り上げることが

できるかどうかが、ファッションデザイナーの仕事であり、

そういう素質や気質を持った人がデザイナーには多いから。


だから、同じものを毎シーズン作り続けるとなると、

ある意味、自身の感情に蓋をしなければならないような

事なのかもしれない。

しかし一方で、、お店としては、まだ欲しいと言っている

お客様がいる以上、続けてほしいと願うのは実に当たり前なことだ。

そういった様々な角度から考えた末、生産をお休みした

susuriの代表作があった。
















susuri ドロシーコート ¥50,000+tax

以前は、「ドロシーシャツコート」という名前で

販売していた、susuriの代表作の一つだ。

お休みを経て、今の気分をのせて帰ってきた。





















生地がとても素晴らしい。

「80番双糸でオックスフォード」と聞くと、

あれ?シャツ生地?

そう思っても不思議ではないのですが、

触って持ってみると、全くシャツ生地のような

感触はなく、見ても見ても、オックスフォード感はどこへやら。
















生地は、ガス焼という手法を用い、

糸の表面の毛羽をガスで焼き落とすことで、

艶感や滑らかさを出しているそうだ。

糸の本数も大変なものだろう。

一般的なシャツ生地のオックスフォードとは比べ物にならない。





















背面のヨークに付いた長い長い襟吊は健在です。

その下のふんだんなギャザーも素敵です。





















衿は以前のデザインとは異なります。

以前は開襟シャツのようなデザインで、第一釦を

締めると、小さな襟が出てくるようなものでしたが、

今回のこの襟は、とてもコートらしさが増しています。

襟裏にボタンはなく、この状態で着ていただくデザイン。





















ドロシーの象徴である隠れループも健在で、

全体のボリューム感が増し、着丈も長くなったことから、

例の着方も磨きがかかっているように感じるのです。
















隠れループを用いた片側結わき。

素敵です。














以前より、裾回りの分量感が増し、着丈も7cm

ほど長くなったことから、そのドレープ感にも変化が現れる。

これを見た時、「そうか、こうしたかったのか。」

そう思って、そこで初めてドロシーシャツコートが惜しまれながら

無くなっていったことが腑に落ちた。















結わいた時の凹凸の出方にも変化がうかがえる。















少し大人っぽくなったというと表現に

乏しいかもしれないが、そういう印象だ。















以前もそうだったが、この結わき方をしたとき、

この結わき目のない反対側が実に美しい。

なにもしていないのに、、美しく形成されたような、

錯覚のようなものを起こしてしまう。















羽織ってボタンを留めないで結わくだけでもいい。




























羽織って、ヒモは後ろで軽く結んでおいてもいい。

デザインを変えてよかったのかどうか?

それは店頭でのお客様の反応を見れば明らかだ。

その魔法に磨きがかかったかのように、

着たとたんに、嬉しい悲鳴があがるのですから。