2019年9月3日火曜日

天邪鬼の作ったジーパンたち


興味を引くデザイナーは、往々にして変わった人が多い気がする。


それは誰かが導き出した正論ともいえる答えに対し、


本能的に対抗意識が芽生えるということなのかもしれません。


そして、そこに対してのめり込める、研究熱心な一面が欠かせないのです。


彼の作ったジーンズは、そういった意味でとても興味深い。





















FIRMUM

スーピマコットン ワイドデニム

indigo ¥22,500+tax


まだワイドパンツが見る影もなく、デニムと言えば


WORK STYLEからくるアメリカのジーンズをモチーフにした


デザインが主流だった頃、天邪鬼な彼は、スーピマコットンと呼ばれる、


アメリカ原産のピマ種で、超長綿として世界的に有名な綿糸を用い、


しなやかでワイドなデニムパンツを作っていた。















縫製糸がグレーというのも、通常のジーンズではあまり見かけないが、

彼の作るジーンズにはとてもしっくりとくる。
















バックポケットは、リーヴァイスのアーキュエイトステッチとは


ほど遠い、丸みのある大きなものが付けられている。
















そうかと思えば、生地そのものはセルビッチ。


つまり旧式のシャトル織機で織られた生地を使用している。


ヴィンテージの証とも言われる、いわゆる「赤耳」のデニムである。


しかしよく考えると、ヴィンテージにはありえない、


超長綿を用いているのであるから、そこへの敬意とともに


反逆心のようなものを感じ取れる。
















そしてこのポケット。


ジーンズの代名詞ともいえる「5ポケット」を無視した、


スラックスパンツに用いられる、スラントポケットを採用している。

天邪鬼ではあるが、この素材にはとてもしっくりくる。
















釦は銀や鉄ではなく銅のネオバを使い、


ベルトループには一見気がつかないある工夫が成されている。


ベルトループが太めと細め、2重になっているのです。


「何だこれ?」って思ったのですが、実際履いてみると


これが嬉しいデザインだということに気がつくのです。


ジーンズのシルエット自体、リーヴァイスの501の様に

真っすぐ立ち上がったウェストで、腰に乗せて履くようなものでなく、


カーブを付けたややハイウェストなデザインなのです。


正確には、ハイウェストと腰に乗せる感じの中間くらい。


そのデザインに、このダブルループが一役買っているのです。














※こちらは前シーズンの写真です。



もしかしたら、ハイウェストなドカンパンツを履く姿を


ジーンズのデザインに重ねたのかもしれません。


「何ですかこのループ?」っていう質問に、


「細いベルトを使ってハイウェストでタックインした時、


太いループだけじゃ、ベルトがウェストからはみ出ちゃうでしょ。」





















かといって、太いベルトをドッシリ付けて腰履きしたい時もある。


このジーンズは、そのどちらで履いてもかっこいい。


このジーンズを初めて見た時、これこそがデザイナーが作るべきジーンズ


なのかもしれないという確信めいたものを感じたことを覚えています。

こちらはベルトもつけずに、やや落とし気味で履いています。
















ジーンズとは思えないしなやかな超長綿の素材感と、


チノパンを履いているような感覚に陥るスラントポケット。
















しかしながら、セルビッチデニムを用いただけに、


本格的な色落ちが期待できるジーンズ感。
















ジーンズという歴史のある概念と向き合い、


彼なりに戯れることで生み出した、少しかわった


ジーンズと呼ぶのがふさわしいのか怪しいこのパンツは、


あまりに不人気であったため、一時は生産を中止しようかと


真剣に悩んだこともあるという。






















そんな中、ファッション全体でムーヴメントとなった


ワイドパンツの存在が、このパンツの一命を取り留めたのは、


少し皮肉めいているようにも感じられて面白い。


天邪鬼でデザインしたはずの変わったジーンズが、


ファッションのトレンドによって救われたのだから。

こちらは、ベルトを使ってウェストで履いています。
















今、皆さんが履きなれたコットンのワイドパンツと


同じ感覚で、軽くロールアップしたりして履いてみても、

普段のワイドパンツとは違った、新鮮な心持が生まれるかもしれません。


そして、最近このジーンズに仲間が増えたのです。

今シーズンは、そちらも一緒にご紹介します。








































FIRMUM

スーピマコットン ストレートワイドデニム

indigo ¥23,500+tax

非常に違いが判りずらいのですが、

履いたら全く違うことにすぐに気がつきます。

こちらはよりヒップに丸みをつけ、ウェストで履くような

設計になっています。

わかりやすく簡潔に言うと、、

ウェストヒップ周りがすっきりして、シルエットは

少し湾曲したテーパード型になっています。















デニムの特徴であるヒップヨークをなんとなくし、

ヒップにダーツが横たわる不思議なパンツ。

米永さんらしい変わったデザインです。





















湾曲した感じ、わかるでしょうか。















今まで、定番のワイドパンツはストーンとした

ビッグシルエットでしたので、華奢で小柄な方ですと、

サイズが合わない場合もあったかと思います。

その場合、こちらがとってもお勧めです。


そして、もう一つ。

こちらは前シーズンダック素材でご紹介していた

細身のテーパーデニムです。






















FIRMUM

スーピマコットンテーパーデニム

indigo ¥21,000+tax

こちらはわかりやすく異なります。

細身ですっきりした、やや極端なテーパー型。

細身と言ってもまったくピタピタではありませんが。






















合わせる靴によっては、とてもキレイ目に

履いていただけます。
















天邪鬼というと、ひねくれものの印象を持たれるかもしれないが、


彼ほどの一流の天邪鬼ともなると、出てくるものは魅力的だ。


芸大で建築の勉強をしていた彼が、ロゴTシャツを作り初めて


各地のセレクトショップを売り歩き、洋服の道を歩き始めた頃、


日本のファッションシーンは、マンションアパレルやインディーズと


呼ばれる新しい世代のデザイナーであふれていた。


そんな中、洋服の教えを受けたことのない彼が、臆することなく


突き進んだことには、素直に洋服に対する情熱とこだわりを感じ得る。


そして、本当に驚くのは、洋服の世界でもとりわけ専門的に扱われる


パターンの仕事を、彼は独学で学び、そして現在も日々勉強だと言い放つ。


洋服の学校を出ずに洋服業界で働いている人はたくさんいるが、


彼のような仕事をしている人には出会ったことがない。


これからも型にはまらない天邪鬼なモノつくりを期待したい。




※こちらのご紹介ブログは、暮らしとおしゃれの編集室の連載
掲載したものを抜粋してご紹介いたしました。
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