2021年8月26日木曜日

スタンドバイミーなシャツ

僕自身のファッション(気分)の中心にいるのは、

60年代〜70年代にかけてのアメリカントラッドで間違いない。

確かに、今の自分からは少し遠い存在のような気もするのですが、

最もどっぷり浸かっていたファッション文化はそこでした。


映画なんか全く勧めてこなかった父が、中学時代に唯一強く勧めてきた

映画が、「スタンドバイミー」でした。英語の教師でもあり、のちには

翻訳業をやることになる父には、その字幕の翻訳にも素晴らしい点がたくさん

あったようで、熱く語っていましたが、当時の僕には全くその時の父の話が

ちんぷんかんぷんで、今でも何を言っていたかほとんど思い出せません。

父は映画館で見たようですが、僕が見たのはたぶん公開されて2年くらいが

経った頃で、ちょうどスニーカーとジーンズに興味を抱き始めた頃でした。

あの映画に登場する少年たちのように、かっこよくジーンズやチノパンを

履けたことは、未だかつてないのですが、高校時代には相当な憧れを

持っていたことが、過去の写真からも感じ取れるから恥ずかしい。


長くなりましたが、お店を9年やってきて、今の気分は少しだけ、

その中心に近づいているように感じています。

このブランドを取り扱うようになった頃から少しづつ。。









Handwerker(ハンドベーカー)
バンドカラーシャツ ¥19,800(税込)

ASEEDONCLOUD(アシードンクラウド)のデザイナー玉井さんが、

おそらく自身の中心に据えているベーシックなワークラインを

ブランド化したもの。

気分が多少外れても、生涯着ることができる普遍性のある

商品が、年々少しづつだけ増えていくブランドです。









肩線にギャザーが入った袖のすっきりとした、しかし全く小さくない

スタンダードで個性的な素晴らしいバンドカラーシャツです。









このジーンズのような紙タグが印象的なのですが、

これを切って着ている人もチラホラ見かけます。

切ったらどこのブランドかわからない気もしますが、

やっぱりこのシャツのギャザー使いやボタンをはじめとする

全体のバランスは、「玉井さんのシャツかな?」って

なんとなくわかるからすごい。










この上から叩いたホームベースみたいなガセットもそう。









クラシカルなループやギャザーもそう。









襟を付け替えていた時代のディテールを本気で再現した

このあたりの仕様もそう。人が着ているのを見ても、

気になって仕方がない。


そんなこと一切考えたことのない妻に着てもらいます。






















最近、調子のいいサスペンダーパンツに合わせて。

まさに50年代後半あたりを彷彿とさせるファッション。









玉井さんが影響を受けているのはヨーロッパですけどね。。













イギリスで長く暮らしていた玉井さんは、付け襟時代の

古いバンドカラーシャツをたくさん収集していたそうです。









Handwekerの定番となったこのシャツは、その収集したたくさんの

シャツとにらめっこをして、玉井さんが生み出した変えようのない

完成されたデザインのシャツなのです。










そして今シーズンから、玉井さんらしいちょっとした

遊び心が加えられています。









それがこのボタン。

写真では全く確認できないのですが、(老眼には直で見ても危うい)

実は一番上のボタンに、ある刻印が彫られています。

「HW  lehrling(見習い)」という文字が彫ってあります。

そして品質ラベルに取り付けられた予備のボタンには、

「HW geselle(職人)」とあります。









これは、ドイツの職人制度で確立された、

「lehrling(見習い)→geselle(職人)→meister(親方)」の3段階を

モチーフにして取り入れた面白いデザインです。

それぞれ「レーアリング」「ゲセレ」「マイスター」と読むそうです。









つまり、ボタンが取れて予備のものを使うほどにたくさん

着続けた人は、見習いから職人に格上げされる、そんなニュアンスです。

なんとも玉井さんらしいユーモア。









素材はコットンがベースでナイロンとポリウレタンが

入った生地になりますので、少し丈夫さと動きやすさを

意識した、まさに職人のためのような素材でしょうか。

そもそも動きやすいシャツですが、ストレッチが入ることで

なお一層に動きやすい。


季節の変わり目は、店内の風景も着るものも変わる一方で、

さらに先のシーズン(来年の春夏)の展示会も始まってきます。

そんな時期には、自身の興味を遡ることで今の気分を探ります。

今シーズンの玉井さんのデザインは、その中心にある存在でした。

彼のコレクションを中心に据えて、バイイングを進めてきたように思います。

このワークシャツのようなストライプも、「そろそろこんなの、どう?」

って言われているみたいで、すごく新鮮に映ったのを覚えています。

入荷してきた今見ても、半年前の展示会での感触と同じように新鮮です。


季節の変わり目、、

皆さんも自身の興味を遡ってみてはいかがでしょう。

新しい発見や面白いことを見つけちゃうかもしれませんよ。