アナベルは、総面積で10坪弱の非常に小さなお店です。
10坪から、試着室やレジスペースなどを差し引くと、およそ7坪。
私の小さな的(まと)をさらに小さく小さく絞り込んでセレクトして
いかなければ、あっという間にスペースは埋まってしまいます。
とりわけ、お洋服以上に慎重にお取り扱いを決定しているのが
靴やカバン、特にシーズンレスでメインで販売しようと思えば思うほど、
より慎重にセレクトします。今日、ようやくのご紹介となるこちらも、
今に至るまでかなりの時間を要しました。
DELMONACO(デルモナコ)
PUMPS ¥40,000+tax
お店には年間でものすごい量のDM、展示会の案内状が届きます。
その中から、気になったところには実際に見に行って、
すぐにお取り扱いまでいくのは、1%未満の確立かと思います。
もちろん、届いたご案内の数に対してです。
その点で、DELMONACOさんは、失礼ながらまったく
聞いたことのないブランドにもかかわらず、すぐに行くことを
決めて連絡を取りました。
それは、その当時のブランドのアイテム展開が
気になって仕方がなかったから。。
届いた案内状は、残念ながら今はないのですが、
白い背景に、赤い花が飾ってあり、そこに素敵な素敵な
ワンストラップシューズが映っていたことを記憶しています。
すごく気になって調べてみると、私にとってはショッキングであり、
同時に、いったいどんな人が作っているのか?
気になって気になって仕方のない事実が判明しました。
当時のホームページを開けると、私が気になって仕方なかった
ワンストラップと、もう一つ素敵なパンプスを発見します。
「これは!」と思ってよくよく見ると、なんと2つともメンズのみの展開でした。
パンプスとワンストラップシューズがですよ。。
「残念」と思って行かなければ、今はないのですが、
わたくしは、パンプスとワンストラップを男性用にだけ作っている
人がどんな人なのかが気になって気になって、、。
もちろん、レディースの靴もいくつか展開があったのですが、
メンズで展開していたパンプスの表情がとにかく気になって、
すぐに電話をしてアポイントを取りました。
(※お店で着用しているものなので、裏が汚れていてすみません。)
展示会に行くと、大柄でとてもおしゃれな男性が待っていました。
その雰囲気から、いい感触を得たのを覚えています。
フルオーダーで何十万のスーツを誂えるビスポークテーラーには、
そのスーツに合わせて、一緒に靴も作るようなことがあります。
彼は、そいういったビスポークテーラーで、フルオーダー、
フルハンドメイドの特注の靴を何年も作っていた職人でした。
当然こちらの靴もハンドメイドです。
彼はこのようにも言っています。
本当にフルハンドでやってきた彼だからこそなのかもしれませんが、
『ハンドメイドによる、職人的デザイン要素を消し、構えることなく
お客様に履いていただき、必然と良い味わいを出す普通の靴が作りたい。』
フルハンドの職人的要素は隠れていたかもしれませんが、このパンプスを
「男性用しかありません。」って言っている時点で、彼のほとばしる
情熱や信念は隠すことができなかったようです。
その時は、結局自分と妻の靴を注文して、お店用には
発注をせずに帰りました。
しかしその1年後、嬉しい電話が入ります。
「覚えてますか?DELMONACOの花谷です。」
あれからいろいろと試作して、わたくしが気に入っていた
メンズパンプスデザインをレディースでも作ってみたという。
もちろん、他店からも希望があってのことなのでしょうが、
とても嬉しくて、再会することになりました。
わたくしは、もう2年で2足、彼の作を履いていますが、
わたくし個人的には、今まで履いた靴の中で最も履き心地がよく、
もっともたくさん履いた革靴です。
皆様にもご紹介すべく、前年の秋ごろから店頭では販売をしていました。
この春、いよいよ通信販売も含め、お披露目したいと思います。
わたくしのような靴の素人にはわかりませんが、
メンズとレディースはあらゆる面で異なるようで、
同じように見えてもなかなか、「はいできました。」
とはいかないようです。長い時間をかけて、
メンズパンプスを女性用に作り直してくださいました。
女性はパンプスがたくさんあるので、いろいろと
経験済みかと思いますが、このくらいの浅さのパンプスでは、
歩いた時のかかとの浮き具合と足に吸い付いてくる感触が
あるのかどうかがとっても気になります。
わたくしの感触では、それがとても良かった。
紐などない、突っ掛けのようなデザインですので、
かかとが多少浮くのは当たり前のことです。
試着ではなかなかお伝えするのが難しいのですが、
いい靴は、「かえり」がいい気がします。
曲げた靴が返るように、インソールからかかとにかけて、
シャンクと呼ばれる金物が仕込まれています。
それによって、曲がった靴に反動を与え、歩くのが
楽になるという方式です。これはすべての良い革靴に
共通した仕組みですが、彼のパンプスはそのあたりが
特に気に入りました。
そんなことを言うと、きっと彼はこう言います。
「いや、まったく特別なことはしていません。」
「当たり前なことをしっかりやってます。」
彼の靴は美しく、目を引くものですが、
過剰なデザインやアピールは全くありません。
それよりも、しっかりと履き心地良く、
しっかりとファッションを引き立ててくれる。
最高のわき役です。
製法は、アナベルで長くお取り扱いをしている、R.U.あらため、
アトリエ・ダンタンの靴と同じ、イタリアンマッケイ製法です。
非常に古典的な製法で、アッパーとアウトソールを
直接縫い上げているのが大きな特徴です。
そのため、このように底面にステッチが見えています。
とても軽く、見た目にもスタイリッシュなデザインが
可能であることが大きなメリットで、長く修理をしながら
履いていく女性用の靴の製法としては、わたくしもお勧めです。
軽くて、本格的。
わたくし自身は冬にもたくさん履きました。
彼の靴を2足、、というのは実は同じ靴を2足買いました。
あまりにも履きやすかったので、色違いで。
妻は別なデザインの靴を履いていますが、わたくしが
履いているのを見て、欲しい欲しいオーラを出し始めました。
買うのも時間の問題でしょう。
マッケイ製法の靴は、デメリットとして、靴底が減ってきた際に、
水を吸い上げると内側に水がしみてくる可能性があるという事。
R.U. もそうですが、「前張り」をお勧めしています。
ヒールはそのままで、前部分だけ修理屋さんなどで、
あらかじめ薄いラバーソールを張ってもらうのです。
それさえしておけば安心です。
その張ったソールを数年に一度張り替えるだけ。
アッパーには適時、トリートメントオイルや靴墨を塗って、ケアします。
防水スプレーをかけておけば、流行りのゲリラ豪雨にも安心です。
隠しきれない情熱を持って、彼は普通の靴を作り続けます。
おしゃれな彼がやりすぎることを抑えるための言葉なのか、、
それとも様々なフルオーダーの靴を作り続けてきた彼がたどり着いた
彼なりの答えなのか、、。
「情熱を持って、普通の靴を一生懸命作りたい。」
そんな姿勢で靴を作り続けています。